【コラム】医療診断AI市場の現場と今後の展開・課題について

診断AIは医療の質と効率を高め、日本の逼迫する医療体制に大きく貢献し得ます。この可能性を実現するには、臨床医・エンジニア・政策立案者・産業界のリーダーが連携して取り組むことが不可欠です。

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03 Jul 2025

人工知能(Artificial Intelligence, AI)は、今やさまざまな業界に浸透しつつあり、医療分野においてもその活用が急速に進んでいます。特に、医師の診断を支援する「診断AI」は、医療AI市場の中でも注目度の高い領域です。 日本では、2019年10月にエルピクセル株式会社が「医用画像解析ソフトウェア EIRL Brain Aneurysm」の薬事承認を取得し、販売を開始したことが診断AI市場の嚆矢とされています。比較的新しい市場であるにもかかわらず、その市場規模は2028年には26億円に達すると予測されており、将来的な成長が期待されています。

世界における医療診断AIの市場について

Grand View Researchの市場調査レポートによれば、2024年時点での世界の診断AI市場は約1.65億米ドル(約242億円)とされ、2030年には約5.44億米ドル(約800億円)に達すると予想されています。年平均成長率(CAGR)は22.46%と非常に高く、グローバルに見ても急速に拡大している分野です。 中でも北米市場は、医療・AI技術の両面において最先端を走っており、活発な研究開発と実用化が進んでいます。これに対し、日本市場はまだ黎明期にあり、今後の展開が期待されています。

日本の医療現場における診断AIの必要性

日本における医療AI導入の背景には、複数の構造的課題があります。 まず、日本は深刻な少子高齢化に直面しています。生産年齢人口は1995年をピークに減少し続けており、2050年には約5,275万人にまで減少する見込みです。一方、高齢者(65歳以上)の割合は2065年には38.4%に達すると予想されています。 このような人口動態の変化は、医療需要の拡大と医療従事者の減少という二重のプレッシャーを生み出します。さらに、2024年4月には医師の働き方改革が始まり、時間外・休日労働の上限が年間960時間と規制されるなど、医療現場の労働環境も変化しつつあります。 これらの状況は、AIを活用した医療業務の効率化に対する期待を高めており、今後、医療AIの需要はますます高まっていくと考えられます。

医療AIに関する法整備と倫理的観点

医療AIには、診断補助に限らず、電子カルテ生成、スキャンニング、MRI画像の品質向上など、さまざまな応用領域があります。しかし、その活用にあたっては、安全性と正確性に関する議論が絶えません。 厚生労働省医政局医事課長が平成30年に公表した資料では、「AIを用いた診断・治療支援プログラムを活用する診療においても、最終的な判断の責任は医師にあり、診療行為は医師法第17条に基づく医業として行われる」と明記されています。 このように、AIはあくまで診断を補助するツールであり、最終的な責任を持つのは医師です。AIの判断が医療行為の主体となることはなく、この原則は今後も変わらないと考えられます。人の命を扱う医療現場においては、AIの導入に慎重さが求められるのは当然のことでしょう。

今後の課題と展望

医療現場では、依然としてアナログな業務が多く残されています。こうした環境においてAIを効果的に導入するためには、以下のようなインフラと人材の整備が不可欠です。

  • 医療機関におけるデジタルインフラの構築
  • 医療従事者へのAIリテラシー教育
  • 医療ニーズに即したAIソリューションを開発できるエンジニアの育成
  • 規制や運用現場を理解したビジネスモデルの構築

今後、これらを包括的に支援する制度設計や産学官連携の強化が進むことで、診断AIの社会実装はさらに加速していくと見られます。

おわりに

診断AIは、医師の診断を支援し、医療の質と効率を同時に高める可能性を秘めた技術です。日本においても、その必要性と関心は日増しに高まっています。市場の成長に伴い、技術、法制度、人材、インフラといった多角的なアプローチが求められる中、今こそ各ステークホルダーが連携し、健全なエコシステムを築いていくことが重要です。

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